全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-ⅻ 着物との本当の付き合い方とは(その8)
現代の、着物に向き合う人(着る人も売る人も含めて)の着物との付き合い方は余りにも偏っている。昔は、高価な着物から普段に泥だらけになって着る着物まであったはずなのだけれども、今は着物と言えば宝石の如く扱われている。
何故そうなってしまったかと言えば、着物を着る人が少なくなってしまったのが大きな理由である。普段着は洋服が取って代わり、着物と言えば振袖をはじめとして晴れ着が主流となった。普段着である紬や綿反、ウールは、生産単数が減り、本当の普段着として織られていたそれらの反物は採算が取れずに姿を消していった。今織られている紬は、付加価値の高い紬ばかりが多くなってきている。
そう言った事情で着物は特殊なものとして扱われ、着物の付き合い方も昔とは変わってきたのである。
しかし、実はそればかりではない。着物が特殊なものになってしまった原因は、我々呉服業界にある。それは、相当な責任である。
呉服業界が斜陽産業となり需要が減り続けた時、業界はどのように振舞ったのか。どんな産業でも売り上げが減ればそれを阻止しようとする。それは当然の対策である。目的は需要の喚起と利益の確保である。しかし、その方向が誤っていた。
需要の喚起の為、あらゆる手段を用いた。過度な勧誘の展示会商法、招待旅行、二重価格による値引き商法、多大な景品など。そして、お客を取り囲んで着物を買わせる、といった犯罪的商法にまで至っている。
そして、利益を確保するために価格のつり上げ、経費の上乗せが行われ、着物の価格は高騰し普段に着る紬でさえも消費者の目には高価な着物と映るようになってしまった。
更に、着物を利益を生む手段としか考えない業者が現れ、普段に着物を着たいと思っている人達の芽を摘んでしまった。
普段に着るような着物、安価な紬や綿反、ウールなどを扱っている呉服屋はどれだけあるだろうか。メリンスの着尺や襦袢、ネルやセルは手に入りにくくなっている。あることはあるのだが、柄数が極端に少なくなっている。扱う問屋も減ってきている。
呉服屋の販売員で仕立て替えや仕立て直しの知識を持っている人はどれだけいるだろうか。古い着物をできるだけ難が目立たないように、いわば巧く仕立てる術をお客様に的確にアドバイスできる呉服屋はどれだけあるだろうか。
仕立替えや仕立て直しなど儲からない。それよりも高価な着物を売ることに精を出している呉服屋が多くはないだろうか。もっとも私は、そのような呉服屋は呉服屋の名に値しないと思っている。
着物は特殊なものではない。本当の呉服屋は晴れ着から普段着まで、どのようなメンテナンスにも応じてくれるはずである。そして、そのような呉服屋はまだ全国にたくさん残っていると信じている。
着物との付き合い方を根本から見直し、いや本当の姿に戻し、それを支えてくれる呉服屋を育ててはもらえないだろうか。呉服屋からの消費者へのお願いである。